Research on Networked Multimedia
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研究内容

因果順序制御

因果順序とは,時間的な前後関係を表します.
因果順序制御の代表例の一つに,Δ因果順序制御があります.Δ因果順序制御では,各MUが発生してから制限時間Δ秒経過する前に受信されると,そのMUの発生時刻にΔ秒を加えた時刻(本稿では,これを制限時刻と呼ぶ)までMUの出力を待機させます.一方,Δ秒以上経って受信されたMUは,古くて利用価値がないとして廃棄されます.
下図に,Δ因果順序制御におけるMUの出力・廃棄の例を示します.

Δ因果順序制御におけるMU出力・廃棄の例

この図では,端末1及び2のMUの発生時間と,サーバでのMUの到着及び出力時間を示しています.Δの値は,100msに設定されています.
端末1で時刻0,50,及び100msに発生されたMUは,サーバにそれぞれ時刻70,160,及び250msに受信されています.これらのMUの制限時刻はそれぞれ100,150,200msですので,最初のMUだけ時刻100msに出力され,残り二つのMUは廃棄されます.
一方,端末2で発生されたMUは,制限時刻までにサーバに到着していますので,制限時刻に出力されます.
以上のように,廃棄されないMUは常に制限時刻に出力されますので,サーバでは,これらのMU間の因果順序が維持されます.

Dead-reckoning(推測航法)

アバタ,オブジェクト,及び機体等の位置情報のトラヒック制御の有効な手法の一つにDead-reckoning (推測航法)があります. 特に,触覚メディアに対しては,高品質な反力を利用者に提示するために,オブジェクトの位置情報が1kHz程度のレートで転送されますので,この制御は重要です.

Dead-reckoningでは,位置情報を送信する際に,過去の送信済み位置情報から現在位置を予測します. 予測方法にはいくつかのものがありますが,簡単のため,一次予測の場合の例を下図に示します.

一次予測の例

上の図では,飛んでいるボールの位置を予測しています. 一次予測では,最後に受信(送信)したMU内の位置とその時の速度から現在の位置を予測します. すなわち,

(予測位置)=(最終受信位置)+(速度)×(経過時間)

によって,位置を予測します. そして,予測位置と現在位置との比較を行います. その結果,予測誤差がある閾値Tdrを越えた場合にのみ現在の位置情報を送信します. この場合には,予測誤差の修正(補正)を行います. 受信側では,送信側と同じ方法を用いて位置予測を行います. そして,位置情報を新たに受信すると,補正を行います.

補正の例

上の図では,予測誤差の修正(補正)をしています. 補正では,誤差の修正を一度に行うと,出力品質が大きく劣化する可能性がありますので,複数回に分けて行われます. この図では,4番目のMUでは閾値Tdrよりも大きくなっており,実際に送信されています. その後,複数回に分かれて補正が行われており,7番目のMUで予測位置に出力されています.

反力の適応制御

反力の適応制御は,ネットワーク遅延に応じて,利用者に提示される反力の計算に用いられる弾性係数を動的に変更します. また, 反力だけでなく,オブジェクトに加えられる力も制御します. 具体的には,ネットワーク遅延が大きいほど,弾性係数を小さくします.
反力Fは次式で与えられます(下図参照).

F = Ks x + Kd v

Ks : 弾性係数(バネ係数)
Kd : ダンパ係数
x : 干渉深度(めりこみの深さ)
v : カーソルのオブジェクトに対する相対速度

カーソルとオブジェクトの関係

ネットワーク遅延が増大すると,x の値が大きくなりますので,この式によると,利用者に与えられる反力が大きくなり,触覚インタフェース装置の操作が困難となります.例えば,ネットワーク遅延揺らぎの吸収のために,メディア同期制御によって,触覚メディアをバッファリングすることは,バッファリング遅延をもたらしますので,必ずしも好ましくありません.このような理由から考案されたものが反力の適応制御です.

反力の適応制御では,下図に示すように, Ks の値をネットワーク遅延に応じて変更することによって,反力F をできるだけ一定に保つようにします.

ネットワーク遅延とKs の関係

誤り制御

触覚を利用した遠隔習字システムでは,パケット欠落などにより,文字の形状の劣化が描画の速度の大きい「はね」や「払い」の部分に現れることがわかっています. そのときの位置情報が失われると,文字の形が大きく損なわれるため,その情報は重要です. そこで,パケット欠落から重要な情報を守るため,重要度を考慮した誤り制御方式を提案しています.

提案方式では,先生の運筆が速い場合の位置情報を含むMUを重要なMUと見なし,そのMUに対してのみ,単独で送信するだけでなく, 後続のMUに相乗せして送信も行います.

下図に文字の表示例を示します(図(a)は先生の端末で表示されたものです). 誤り制御が行われていない図(b)において,「はね」や「払い」の部分が大きく劣化していることがわかります. 一方,提案方式を用いている図(c)では,それらの部分の劣化は見られず,図(a)とほとんど同じ出力品質を保つことができています.

従って,提案方式により,メディアの出力品質を高く維持することができます. 提案方式は,触覚を利用した遠隔描画教示システムにおいても用いられており,その有効性が明らかにされています.

文字の表示例